卵巣癌と診断された患者さんへ
卵巣癌とは…
卵巣癌は近年増えてきています。症状がほとんどないため約半数の患者さんが進行癌の状態で発見されます。また、卵巣には非常に多彩な種類の腫瘍が発生します。大きく分けて上皮性腫瘍、性索間質腫瘍、胚細胞腫瘍の3種類に分かれますが、93%が上皮性腫瘍です。これからの説明は主に上皮性卵巣癌に対する治療とご理解下さい。性索間質腫瘍、胚細胞腫瘍は別に記載します。
卵巣癌の治療の流れ
卵巣癌の治療は手術療法と抗がん剤の治療を組み合わせて行います。進行期により治療の内容が異なります。
臨床進行期
1期 卵巣にとどまっている状態
2期 癌が卵巣と子宮など骨盤内にとどまっている状態
3期 癌が腹腔内へ広がっている状態
4期 肺、肝臓など腹腔外へ広がっている状態
治療方法
卵巣癌の治療は1)手術、2)化学療法を中心に行われます。ただ再発等の場合に放射線療法を用いることもあります。
手術療法
子宮、両側卵巣・卵管、虫垂、大網、骨盤内リンパ節、傍大動脈リンパ節を摘出します。腹腔内の検索、細胞診も併せて行います。開腹時に卵巣にとどまっているようにみえても約30%の症例でリンパ節への転移がみつかるとされています。進行期を正しく決定し、適切な治療法を選択するためには上記の手術が必要となります。
卵巣癌の場合には手術で完全に取りきれなくても、できるだけ腫瘍を摘出することが重要です。2cm以上の腫瘍が残った場合と残らなかった場合で治療成績は大きく異なります。
初回の手術時に手術が不可能と判断した場合は、診断を確定させより適切な治療法を選択するために、癌の一部のみを摘出することがあります。(試験開腹)このような場合でも、のちの抗がん剤治療により手術が可能となった場合は上記の手術が行われます。
リンパ節郭清によって生存率が高くなるかどうかは議論のあるところです。ただリンパ節に転移があるかどうかは取ってみないとわかりませんので、進行度を正確に知るためにはリンパ節郭清が必要です。
化学療法
抗がん剤を用いた治療で、卵巣癌の治療の骨格をなすものです。進行期Ia期(一側の卵巣に限局した)で高分化(癌組織が正常組織に比較的似ているもの)以外は基本的に術後の抗がん剤治療が必要になります。
現在、卵巣癌に対する抗がん剤は、パクリタキセル(タキソール)とカルボプラチン(パラプラチン)、あるいはドセタキセル(タキソテール)とカルボプラチンの組み合わせを使うことが標準とされています。この両者は効果の点では同等ですが、副作用の点ではパクリタキセル + カルボプラチンは神経毒性(しびれ)が強く、一方ドセタキセル + カルボプラチンは白血球減少が強くでることがわかっており、患者さんによって使い分けすることが可能です。
1. 術後化学療法
手術を行い、進行期が確定したあとに、癌の根治を目指して行われる治療です。進行期により施行回数が異なりますが、6回繰り返すのが標準です。ごく一部の初期癌の場合3回で終了することもあります。また、6回で寛解しない場合はそれ以上繰り返すことがあります。
2. 維持化学療法
進行卵巣癌(3期、4期)で術後の化学療法により寛解になった場合、そのまま経過観察を行うと約50%の患者さんが再発するとされています。このような患者さんに対して再発の防止を目的として行われる治療が維持化学療法です。現在当院では、4週毎にパクリタキセル(タキソール)を12回繰り返す治療を行っています。これは2003年にアメリカで報告された短期的な再発率の低下が明らかとなった臨床試験が根拠になっています。副作用が少ないため外来での治療が可能です。
3. 術前化学療法
初回に大量の腹水あるいは胸水等がみられる場合や、癌が大きな腫瘤を形成し手術で取りきれない場合に、癌の縮小や全身状態の改善を目的として行われる化学療法です。上記の抗がん剤を3回程度行い治療が有効であった場合引き続き手術が行われます。抗がん剤治療を行った後に手術で取りきることができれば、治療効果に差がないとされています。
4. 再発時の化学療法
不幸ながら再発された場合の治療は、やはり抗がん剤治療が基本となります。
この場合、前の治療がよく効いてなおかつ6ヶ月以上経過している場合は、前回と同じ抗がん剤を使った治療が行われます。前の治療で治りきらない場合や、6ヶ月以内に再発する場合は、初回の薬に抵抗性があると判断し別の抗がん剤を使った治療になります。
治療の方法
パクリタキセルとカルボプラチンの併用療法について説明します。投与量は、安全性が確認されている範囲内で患者さんの体の状態に合わせて決まりますが、患者さんによっては副作用が強く出ることがあるので慎重に投与する必要があります。点滴で治療を行います。3週毎に治療を繰り返すことが基本ですが、副作用が強く出過ぎた場合や、発熱などで3週目に抗がん剤治療適当でない状態と判断した場合は延期することがあります。パクリタキセルは溶媒としてアルコールを使用しています。アルコールに対するアレルギーがある場合は治療前に主治医の先生とよく相談して下さい。
基本的な治療の流れ
外来での治療
副作用が少ないであろうと予想される場合や体に対する負担が比較的軽いと考えられる場合は外来で治療を行うことがあります。この場合、血液検査を行いながら治療ができるかどうか判断します。治療中はあまり人混みのなかに出かけることのないように、また無理をすることなく規則正しい生活を心がけて下さい。自宅では発熱やかぜ症状などに注意し、普段と違った症状がある場合は早めに診察を受けることが必要です。
抗がん剤点滴中の注意
抗がん剤は筋肉注射が不可能なものは点滴注射あるいは静脈注射で行いますが、血管から抗がん剤がもれた場合は皮膚炎が起こるため処置が必要です。はれてくる、痛みを感じるなどの場合は遠慮なく知らせて下さい。抗がん剤が体に合わない場合、発疹、気分不良、発汗、一過性低血圧、発熱などの症状がでることがあります。このような症状がある場合は早めにスタッフに知らせて下さい。

抗がん剤の副作用について
抗がん剤は増殖の盛んな細胞を攻撃します。がん細胞だけを攻撃すれば理想的ですが、体の中の正常な細胞にも障害を与えます。血液になる骨髄中の細胞や、髪の毛を作る細胞、消化管粘膜の細胞などは増殖が盛んでこれらの細胞にも少なからず影響がでます。副作用は次のようなものがあります。
1. 悪心・嘔吐
抗がん剤投与1時間後くらいから生じるものから治療後5〜7日目まで続く悪心があります。吐き気止めを使うことによりかなり軽減されています。吐き気止めの薬も数種類あり、組み合わせて使うこともあります。
2. 白血球減少、血小板減少、貧血
抗がん剤はがん細胞だけでなく、増殖の激しい骨髄中の血液のもとになる細胞にも影響をあたえます。白血球が少なくなれば感染の危険性が出てきます。のど、肺、尿路、消化管、性器などからの感染がおこりやすく注意が必要となります。発熱(37.8℃以上)、さむけ、下痢などの症状に注意して下さい。あまり少なくなると白血球を増やす注射を行います。この場合、骨に痛みを感じることがありますが、心配ありません。発熱など感染を疑う所見がある場合は抗生物質の点滴を行うことがあります。白血球減少のピークは治療後1〜2週間です。
3. 血小板減少
血小板が少なくなると出血しやすくなります。鼻出血、歯肉からの出血、紫斑や皮下出血に注意が必要です。現在のところ血小板を増やす薬がないため、極端に下がりすぎた場合は血小板の輸血を行うことがあります。血小板減少のピークは治療後1〜2週間です。
4. 貧血
治療が長くなると徐々に貧血が進行してきます。貧血が強くなった場合、体のだるさや息切れを自覚することがあります。バランス良く食事を取ることが重要です。治療が終了すれば回復します。血液の状態が悪い場合は次の治療を延期することがあります。
5. 脱毛
髪の毛をつくる細胞も抗がん剤の影響を受けやすく、治療を重ねていくうちにだんだんと髪の毛が抜けてきます。治療が終われば毛はもとどおり生えてきますので心配ありません。帽子などをかぶり目立たなくする場合もありますが、カツラを用意しておいてもいいと思います。

6. 筋肉痛、関節痛
抗がん剤投与後、数日間痛みが出る場合があります。一過性のもので軽快しますが、ひどい場合は湿布や鎮痛剤を使うこともあります。
7. しびれ
手先、足先などがしびれてくる場合があります。抗がん剤が神経細胞を痛めることにより起こります。治療を繰り返すとだんだんひどくなってくることがあります。どうしても我慢ができない場合はしびれが少ない抗がん剤もありますので主治医の先生と相談して下さい。治療が終了すれば時間がかかりますが良くなってきます。
8. 口内炎
口の中がヒリヒリしたりしみたりすることがあります。うがいをしっかりするなどして口の中を清潔にすることが重要です。
9. 下痢
胃や腸の粘膜が障害をうけて下痢になることがあります。数日間で軽快しますが、長引くときやひどい場合は下痢止めを使うこともあります。
10. その他
抗がん剤の影響が心臓や肝臓、腎臓、肺などに出る場合があります。薬剤性の肝障害は薬の影響がなくなればだんだん良くなってきますが、からだのだるさとして感じることがあります。腎機能に影響が出る場合は血尿などの症状がでることがあります。心臓、肺に障害が出るタイプの抗がん剤の場合は呼吸機能や心機能の検査を行いながら治療を行います。また、影響が長引いた場合は治療を延期あるいは薬剤の変更、減量が必要となることがあります。
上記が主な副作用ですが、患者さんごとに症状が異なりますので、ご不明な点は主治医の先生とご相談下さい。


検査の種類
腫瘍マーカー
正常組織から産生されずに癌細胞のみからつくられる物質は現在のところ発見されていませんが、癌細胞から多くつくられ、癌の量を比較的数値化して表すものとして腫瘍マーカーがあります。治療効果の判定や再発のチェックに使われます。卵巣癌の場合次に示した腫瘍マーカーの組み合わせがよく使われます。正常な組織からもつくられているため、癌が治癒した場合でも0になることはありません。血液を採取して検査します。
種類 腫瘍マーカー
上皮性卵巣癌 CA125, CA72-4, SLX, GATなど
胚細胞腫瘍 AFP, hCG
性索間質腫瘍 エストロゲン
画像診断(超音波検査、CT、MRI、PET)
定期的に画像検査を行います。これは治療効果の判定あるいは再発のチェックに使われます。骨盤内のチェックは超音波検査、全身を広くチェックしたい場合はCT検査、特定の部位を詳しくみたい場合はMRI検査、また最近ではより小さな癌の発見を目的としたPET検査が行われます。
性機能に対する影響
卵巣を残している場合、抗がん剤が卵巣に影響を及ぼして卵巣の機能が低下し、月経周期が不規則になったり、無月経になったりすることがあります。通常の治療であれば終了後6か月以内に月経が回復することがほとんどですが、不安を感じる場合は治療前に主治医の先生とよく相談して下さい。

胚細胞腫瘍
これらの腫瘍は比較的若年に発生することが多く、種類も非常に多彩です。個々の症例により若干異なりますが、抗がん剤治療がよく効くため、初回の手術では片側卵巣と腹腔内の病変の摘出にとどめ(子宮および対側卵巣は温存)抗がん剤治療で95%以上の治癒が期待できます。この場合の抗がん剤はブレオマイシン、エトポシド、シスプラチンあるいはブレオマイシン、ビンブラスチン、シスプラチンの3剤の組み合わせで3〜4回行います。
性索間質腫瘍
これらの腫瘍はホルモン産生を認めることが多く、これが腫瘍マーカーとなることがあります。多彩な腫瘍が含まれており、治療法は腫瘍の種類によって異なるので主治医とご相談下さい。